無いものねだりです
ちりめんチャコ

好きな色の花を好きなだけ集めて花壇を埋め尽くすと
使わなかった色が急に気にかかってくる
流行なんてそんなもの
好きな色と思っていたものは
そのとき売り場で売られていた流行で
そのときの欠落と季節の移ろいを補うのが
次の流行

以前住んでいたマンションのベランダからは
小さく小さくランドマークタワーが見えていた
もしかしたら海らしいものも見えていた
花火大会はあちらこちらのが見えていた
雨が来る前には海からの強い風が渡ってきて
台風の後にはたくさんのトンボや
あまり見かけないようなアゲハがどこかから運ばれてきて
翌日にはどこかへ飛んでいった
よく雨の降る街だった

今住んでいるのは海のない街
淀んだ大きな川が幾筋も流れる
同じ天気図を見て
あの街に降っている雨は
この街にまで来ない
代わりに黒アゲハがやってきて
夏の終わりのカラミンサにはシジミチョウとミツバチ、アシナガバチ
戸建の小さな庭は楽園のように草木を茂らせて
色んな芋虫の名前も覚えたけれど
永遠に満たされない渇きがあるということ
また思い知らされている

もちろん降雨量とは関係なく

庇らしきものがほとんどない今度のベランダからは
夜空のてっぺんを探り当てることができる
首がイテテとなりながら
遠く離れても同じ星同じ月を見ているね
なんて言い合った人はもう本当に遠くどの空の下にいることやら
それでも見上げた空には同じ星同じ月だから呆れる

どこが一番自分に似合っているかって
問いかけ続ける
流行色を追うように
不毛と知りながら
次のどこかを探してしまう
草木はこんなにも根を下ろしているのに



自由詩 無いものねだりです Copyright ちりめんチャコ 2008-09-26 17:06:18
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