その後の情景
渡邉建志

 出発ゲートで恋人と別れた後、僕は一人で五階へ上り見学テラスへ出て特上ロース
かつ定食1100円を食べた。この前はここで一緒に食べたが今度は一人だ。食べ終わると
そろそろ飛行機が飛ぶ時間だった。テラス端の手摺りにつかまって飛行機が次々と飛ん
でいくのを見ていると、老人が来て、今日もよく飛ぶねえと言った。ええ飛びますねえ、
と答えた。恋人でもどこか行くのかいと言った。ええまあと答えた。僕も老人も立った
まま滑走路を見ていた。飛行機は意外と大きな角度で上昇していった。次々と。


 おーいと老人が叫んだ。僕も面白いのでおーいと叫んだ。変わりなく飛行機は次々飛
んだ。A航空が来てこれも無事に飛んだ。行っちゃったねえと老人が言い、行っちゃいま
したねと僕は答えた。


 だれを見送っているんですかと言おうとしたが、どうも毎日来ているのだなという考
えが急に襲ってきて黙ってしまった。老人も黙ってしまって、ふたりで行ってしまった
A航空の小さな姿を追って立っていた。


自由詩 その後の情景 Copyright 渡邉建志 2008-09-24 14:51:07
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