靴音とブルース
かのこ

鉛色を映した屋根を幾つか越えて
街に響く、錆び付いたレールの
軋む音、
今日も始発の出る頃
そこでやっと夢から覚める
床に就く

この街に雨が降ったのは
何日前のことだっけ

高層ビルが鬱蒼と生い茂った都会の真ん中の
まるで巨大な生き物みたいな歩道橋の上で
小雨の中、誰一人傘をささず歩いていた
そこの欄干から、行き交う人や車の群れを見下ろして
誰かを待っているのだろうか、あのひとは
耳を澄ましているようにも、見える
誰かを想っているのだろうか

あたしは、
濡れた地面を合わない靴で踏んで
ただ立ち止まるのが怖くて仕方がなかった
この靴さえ脱げれば
このまま此処で行き倒れてしまいたいのに

ねぇ
そこのひと、ピアニカを持って
誰も立ち止まってはくれないのに
それでも歌うの

点滅する信号がリズムを奏でるなら
振り向くひとの髪がきれいに揺れたなら
聞こえてくるの、街中に腐るほどありふれた愛の歌が
ひとつひとつの音が、空をめぐって陽の光を呼ぶ

突然の土砂降りで、交差点は慌しく
あたしは、走れない靴を引きずって
でも少し、立ち止まってみた
息が切れてるから、今は
終点、HANKYU梅田駅から
もう一度出発する


自由詩 靴音とブルース Copyright かのこ 2008-09-24 06:32:59
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