塾帰り
渡 ひろこ

ギリギリでバスに乗りこむと
最後部の片すみに
ちょこん とすわっていた
同じ塾の子たちと離れ
まわりを遮断するように
本を開いている


「よかった 帰りが一緒で」
となりにすわると
ああ というまなざし
コートからはみ出たひざに
ぽん と視線がはねかえった



いつのまにか
すんなりのびた手足に
早熟な蔦をからませている



窓の外はもう黒々と沈み
車内の蛍光灯がやけに明るく
青い蜜柑のような
ほろ酸っぱさを照らしだす


船頭のいない小舟のような揺れを
背中に感じながら
排気音にかきけされそうな
うつむき加減のコトバを
ていねいに拾っていく


家路までの数十歩
オリオン座の冷たさに
思わず懐に抱きよせると



キティの弁当箱が
カラン と笑った




自由詩 塾帰り Copyright 渡 ひろこ 2008-09-22 20:11:12
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