虹
モリマサ公
世界中にできた闇の部分がすごいスピードでずれて
くちぶえが遠ざかり
輪郭線が地平線とまじわりながらかたちをかえて
あたしたちはまだうっすらと汗をかいて
雲の裏側にのびていく光の筋が不意に音をたててちぎれ
倒れたいくつもの植木鉢に張られたままのクモの巣が揺れ
それらにはもうなまえがなくて
捨てられた食器スプーンにフォークがぶつかって音を立て
なくしたものはさがしてもなくて
それでも俺たちは何度も生き残り
交差点に声がうかびあがりクラクションが地面に染み込んで
もう消えてしまったはずの星たちがまだどこかでひかって
まだうまれていない命が瞬間ごとに
ぶれておばけのごとく宙を舞い
空がまた新しく大胆に一枚一枚それぞれに破けて
なくしたものはさがしてもなくて
地図がひろがって道はどれも偶然につながってどこかまばゆく
メトロが徐々に各ホームを離れ加速し
ベクトルがささやきながら旋回し
バイパスはまだまっしろく
産毛たちがつぶやくいくつもの意味に絶望しながら
なお立ちあがり
捨てられた幸福を切り裂き瞬くその輝きを吸い込み
おぼろげながら記憶をたどり吐き出し
なくしたものはさがしてももうなくて
ゆっくりとたしかに虹や生きた子供たちの骨がのびてゆき
ゆっくりとたしかに虹や生きた子供たちの骨がのびてゆく