真珠いろの月の晩に
月下美人

海のきぬ擦れが耳を攫う

だれかに名前を呼ばれた気がしたから
水の色が碧から黒に変わるころに
海豚のやさしい瞳を胸に抱えて
こっそりとそらに顔を出してみた
鳥の嘴が白の甲羅を遠慮がちにコツコツと叩く音
魚たちはいいないいな羨ましいなといいながら
ひれの脚でひらひらと泳ぐ
懐かしい面差しの白の光がわたしを捉らえて
辺り一面を取り囲うように掬う
わたしはくるくると踊りながら
星屑の螺旋を身に纏う

目一杯回したのに
いつかはきっと人魚も海へ還って行ってしまう
オルゴールの蓋を閉じてしまえば
広がるのはただ空虚な闇ばかり
それでもどんなときでも
この夜があるから生きていられるのだと
そう想える



唄は、終わらないよ


自由詩 真珠いろの月の晩に Copyright 月下美人 2008-09-18 23:16:54
notebook Home