僕が決壊した夜
nonya
灰皿の中には
口紅のついた吸殻が三本と
長いままへし折られた
断末魔が一本転がっている
口をつけなかった
ウィスキーグラスの氷は溶けて
意気地がない表面張力が
テーブルを濡らしている
僕の真っ暗闇は
呆気なく決壊して
暗い水が君を押し流した
砕け散った言葉の残骸を
網膜で受け流しただけで
僕の思考はひたすら痺れていた
案外ヤワだった
僕の愛しい日常は
真っ暗闇の中に
古びた発動機が一台
それを取り囲む皮下脂肪と
それをコーティングする
若干の見てくれで出来ていた
それでも
君の長い爪のような
言葉に引っ掻かれただけで
いとも簡単に破れてしまうなんて
思いもしなかったんだ
水位の下がった部屋の
萎んだソファに沈み込めば
辛うじてカーテンの隙間に
引っかかっている痩せた月
輝いている部分だけが
月じゃないさ
なんて
ぽつんと遠吠えしたところで
ひとり