僕らの休日
小川 葉

 
父さんと
楽天の試合を見にいった
けれども本当は
野球よりも球場を一周する
小さな汽車に乗りたかったから
父さんは入場券をポケットにしまって
試合が終わるまで
何度も何度も汽車に乗せてくれた

帰り道は少し離れた駅まで
父さんにおんぶしてもらいたかったから
父さんはリュックを胸にかけて
駅に着くまで
どこまでもどこまでも
おんぶしてくれた

父さんの背中に
僕は鼻をくっつけたり
ホッペをこすりつけたりして
揺れながら
いつまでもいつまでも
父さんのにおいがした

おなかすいたね
そう言って父さんは
駅までの道を少し遠回りして
静かな裏通りの町へ歩いていった
おいしいラーメン屋さんがあるらしかった
僕が産まれたときからずっと
一緒に食べに連れていきたかったらしかった

けれども区画整理のため
店はもうなかった
少しうつむいてしまった父さんの背中に
僕はまた鼻をくっつけた

華やかな駅前に出ると
この町にもパルコができたんだ
そう言って父さんは
まぶしそうな顔でビルを指差す
僕はパルコが何か知らなかったけれども
きれいだねとだけ言った
はじめて都会にきたような
若者のような細い背中に
僕はまたホッペをこすりつけた

駅まで母さんが迎えにきていた
僕は父さんの背中を降りて
母さんの胸に抱かれた
野球たのしかった?
ラーメンおいしかった?
母さんが尋ねても
僕と父さんは目を合わせて
照れくさそうに笑うだけだった

家に着いてテレビを見ると
楽天は逆転負けしてた
けれども僕らは大勝利だった
母さんがつくってくれた
焼きそばをほおばりながら
僕らは目を合わせて
そう思った
 


自由詩 僕らの休日 Copyright 小川 葉 2008-09-17 01:33:57
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