空白
健
また
てのひらの上からこぼれた
また
確かめる前に
こわしてしまった
すこしのためらいを
みぎの目にのこしたまま
ときが
ときがたつのを待っている
やがて
いつものように ひが暮れて
新しい がやってくる
途方もなくおおきくて
ひとり では
少しきびしい が
+
雨のなか
深夜 ぬけだして
(どこへ) ぬけだして
(どこかで) 立っている
あのうしろすがたが
いまも 目にやきついている
てをつなぎたいのに
何をさしだせばいいのかわからないまま
ただ 雨にうたれるのが 好きだと そう思っていた
+
かたりかけることの
難しさについて
ずっとかたりあいたかった
遅くはないと 思ったころには
もう それはきのうのことで
なにひとつ 言葉にはできずに
なにひとつ の
ひとつを ひたすら探してばかりいた
+
だれが
そこにいたのだろう
だれが
ここにいるのだろう
一瞬の沈黙が
とめどなく成長を続けて
津波のように押し寄せる ゆうぐれを
今日もまた
ため息と一緒に
飲みこんでしまう
+
+
いえなかった言葉を
もう一度 口ずさんで
きのうの空白へと 耳を傾けた
ぼくの中で
ゆうぐれはよるに変わり
どこまでも 広がり続けていく
窓の外にはただ
外の
メロディが
優しく鳴り響いて
その先を
*
知りたくはなかった