叔父の背中
吉岡ペペロ
夏休みぼくは
叔父の自転車のうしろに乗って
少年将棋大会に通った
叔父といっても
いま思うとまだ20代の若者だった
叔父は近所の中高生を呼んで
自宅で家庭教師みたいなことをしていた
夏休み母とぼくはそこに帰省していた
母はそこから仕事に出た
叔父の背中からは
ハチミツの濃い匂いがした
寄せうまなったなあ、とか
うちに帰ったら観想戦しよか、とか
ハチミツを嗅ぎながら
ぼくは叔父の話をきいていた
叔父は父親がわりをしてくれていたのだろう
ぼくは叔父のなにがわりをしたのだろうか
アメリカ留学中
叔父の死の報せをうけた
帰国しなかった
さいきんになってそれを
茫々とした哀切とともに思い出すのだ