絵描きの長い旅
ふたば




絵描きは追い返せ
街には入れるな
見張りを怠ることなかれ
立て札を増やしておかなくては
雨と砂を浴びて
バイクにまたがり遠い国から
さっきやって来たかとおもうと
とぼけた素振りでふらりと住み着き
子どもたちからご老人
紳士淑女から浮浪者たちまで
見境いなしに味方につけてしまうくせ
次の朝出ていってはもう帰ってこない
海をまるで生き物みたいに波立たせるし
花に新しい名前を与えてしまう
ましてや人間があんなに美しいものだなどと

鉄線を張り巡らせなければならない
仔犬をどれも番犬として育てなければ
旅人の手荷物という荷物すべて
徹底して調べさせなければ
筆を持ってなくとも指の腹には
絵の具が染み付いてるかもしれないし
イーゼルやパレットを持ってなくても騙されてはならない
大切なのは目の中をよくよく覗いてみる事
ろくでなし一文無しなまけ者に見えていても
大酒呑みの薄ら笑いを浮かべていても
瞳孔の奥に鋼鉄の灯りを隠してあって其処へ
森を吹き抜けるはずの風を吸い込んでいってしまうし
時間を色付きの派手な訳ありにしてしまい、おまけに
道端に絵を描いていた面影まで残していってしまう
まして目に見えない
言葉のまるで通じないものを残していこうなどと

絵描きは追い払え
絵描きは街に入れるべからず
ひとり許せばすぐ三十人に増えると思え
此処にはお前が描くものなど何ひとつないと
付け加えるべきものも
受け止め直すべきものも、何もないんだと
消しゴム代わりのパン切れをぶつけてやれ
中に入れさえしなければ
奴等は勝手に外でのたれる
音楽家だとか詩人だとか手品師だとか名乗る
タチの悪い連中と同等に扱え





自由詩 絵描きの長い旅 Copyright ふたば 2008-09-14 23:40:07
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