呼鐘
木立 悟
手首をすぎる風の先に
向かい合う双つの枯れ木があり
雨に雨を降らせている
夜が増すごとに
熱は辺をゆく
遠くも近くも ただ打ち寄せる
朝の裾が笑い
見えなくなる
はざまはにじむ
雨ににじむ
幸福を差し出し
ゆがみを得る
軌跡に実る火
燃す音のなか
燃されぬもの
闇のなかに
闇の穂があり
闇より暗く
水を集める
小さな器の
ふちを照らす
母に盛られた毒を吐き出し
自ら選んだ毒を呑むとき
羽は生まれ
羽は生まれ 空を焼く
やさしいものは毎日変わる
やさしいものは見つからない
やさしいものはどこにもいない
焼け落ちてゆく無人の街なみ
おいでおいで
あっちへおいき
手のひらの鐘
鳴り響く
舌の上に血と空が重なり
雨音にも稲妻にも分かれることなく
呑み込まれなお呑みこまれながら
そのままの鐘を聴きつづけている
何かが流れ去っていた
光の色が変わっていた
水のような匂いがつらなり
涸れ川をひとすじ下っていった
白に遊び 銀に遊ぶ
夕陽にはない色
はじまりと終わりの外の手のひら
さかさまの刃の森から降りそそぐ
巡るものが描くむらさき
夜のうしろにある色を呼び
動かぬものに手を差し延べ
動かぬものを動かしてゆく
地に到くことのない静かな明るさ
痛みは今夜も牙の位置にあり
拡がりゆく火へ鳴り響いている