nonya

足が歩いていた
宙ぶらりんの午後の
人影も疎らな舗道を

足が歩いていた
左右ぃ 左右ぃぃ
交互に舗道を愛撫しながら

足が歩いていた
素っ気ない陽射しを
ふくらはぎに受けて

足が歩いていた
行先が定まらない
紙飛行機の身軽さで

上半身はもともと
湿気で出来ていたから
乾いた風にさらさら
さらわれたって
とても文句は言えなかった

残された足には
約束も
住所も
世間体も
携帯番号もなかった

くたびれたコンバースの
右のかかとの減り具合が
足の唯一の「らしさ」だった

見上げられない
水彩画の空を見上げて
聞き取れない
衣擦れの風を聞き取って

足はいつまでも
どこにも触れていない
時間の真っ只中を
ほっつき歩いていた

ほっつき歩いていたかった

ふいに
野暮なしゃがれ声が
足の忘れていた名前を呼んだ

現れそうになる上半身を
慌てて隠そうと
足は路地裏に駆け込んだ


自由詩Copyright nonya 2008-09-13 12:29:47
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