隙間
小原あき

初めて会う人の顔の真ん中に
或いは胸の真ん中に
おへその辺りに
とにかくその人の中心線に
隙間がないかどうか
確かめる
それは
ある時はボーリングの球くらいの大きさだったり
ある時は米粒にも満たない大きさだったりする
とにかくその隙間が見つけられた人とは
わたしは一生縁を切らないだろう


それを発見したのは中学生のくらいの時だった
両親はもちろん
姉にも茶碗くらいの大きさの隙間があった
クラスメートで話をしたことのある子は
すべてその大きさは様々だが
隙間があった
まったく話をしたことのない
ただのクラスメートには
あのころ両眼2.0だった視力でも
見つけられなかった


高校生になって視力が1.5に落ちても
相変わらず隙間探しはやめなかった
新しいクラスで
新しい友達を捜すのも楽だった
隙間さえあれば
その子とはうまくやれると確信していたから


後ろを振り返った時に見えるその席に
卵くらいの大きさの隙間がある子が座っていた
わたしは迷わず声をかけ
すぐに仲良くなった


ある日その子に友達を紹介された
だけど、その友達には隙間が見つからなかった
こんなことは初めてだった
隙間のない人と話をしたことがない
どうしよう、と思っていると
結構気さくに話しかけられた
話は意外にも弾んだ
だけど、心にしこりが残った


数日後
学校でその友達に会うと
なぜだか憂鬱な気分になった
だけど、邪険にはできなかった
卵大の隙間の子には
この友達の隙間が見えているようだったから


その友達に会うたびに
なんとかして隙間を見つけようとした
だけど、その度に嫌な気持ちになった
憂鬱な気持ちになった
やめてしまおうかと思った
だけど、探し続けた


その結果
親指の爪くらいの大きさの隙間が
その友達の脇腹に見えた
中心線上にはなかったけど
嬉しかった
初めてその友達と近くなれたような気がした


翌日
その友達の隙間が消えていた
だけど、目を凝らせば見えないことはなかった
その友達に会った瞬間の憂鬱を
この隙間探しで克服した


それからわたしは専門学校に入って
就職して
結婚して
家庭に入った


夫には
初めてあった時に
ボーリングくらいの大きさの隙間を見つけた
今までで一番大きかった
だから、結婚した


今、問題をかかえている
今まで、最初に隙間を見つけられなかった人から
隙間を見つけだすことは
高校生のあの体験を経てから
社会に出て隙間探しの能力は取得した今となっては
容易なことだった
だけど、


最初に隙間の見えた人から
ある日、隙間が見えなくなった時の対処方法を
わたしはまだ知らなかった





自由詩 隙間 Copyright 小原あき 2008-09-12 20:47:32
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