待つ
佐々宝砂

しめやかであざらかな夜
かさぶたのようなくちびるを噛みしめる
暗い空のどこかから
豚の悲鳴がきこえてくる
月はすっかり遠く小さくなって
満月だというのに私の庭は暗い
でも私は知っている
約束の日がやがてはくるのだと

私の手は星に届かないという事実
もちろん月にさえ届かないこの指先に
遠ざかりゆく月からの光、わずかに
空間を隔てても
時を隔てても
そう230万光年の彼方から
アンドロメダが地球に光を投げかけるように
出会うものは出会うのだから
まだ私は待っていよう

静かに湿ったてのひらを握って
私は待つ
子宮内膜のように待つ
薄く引き延ばされる私の生
やがてほどけてゆく私の記憶
いつまでも
どこまでも
私が私でなくなるときも
まだ私は待っていよう



自由詩 待つ Copyright 佐々宝砂 2008-09-12 20:11:55
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