家事
吉田ぐんじょう


掃除をすると
部屋の四隅から
無限に白い米粒が出てくる
表面は乾いて
埃にまみれて
まるで
昔わたしが産み落として
そのまま捨てた卵のようだ


遠くに見えるラブ・ホテルの灯りを
ぼんやり眺めながら肉を切る
あの四角い
鉄錆のにおいのする部屋で
どんなプレイがなされているのか
想像しながら脂身を丁寧に取り除く
うすぐらい電灯が
どんな汚いことも押し隠してくれるように
白々しくともっている


買い物の帰りに
ふと消えてしまいそうな感覚に襲われる
つまさきから揺らいで
掻き消されて
あとには
夕暮れしか残らないような
不安だから
お豆腐のパックなんか握りしめて立ちすくむ
現実感のあるものを
少しでも現実感のあるものを
自分が確かに居ると分かるように


洗濯物を
取り込んでいる夕暮れ
放課後の中学校から
練習中の鼓笛隊の
勇ましいマーチが
間の抜けたように
漂っている




自由詩 家事 Copyright 吉田ぐんじょう 2008-09-12 08:07:01
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