September,11
広川 孝治

あの日
ママは誕生ケーキを買って来るはずだった
四角くてイチゴが四隅にあって
もちろんバタークリームのいっぱいのってるやつ

僕が六本のろうそくの火を
吹き消すはずだったんだ

だけどあの日
ママはビルの63階で
風になっちゃった
炎に包まれて

ほんとはね
僕が風を吹かせて
炎を消すはずだったんだよ

でもね
ママはビルの中で
炎に包まれて
風になっちゃったの

ねえ
知ってる?
風って抱きしめられないんだよ

ママが風になったって聞いて
お外に出て
抱っこしてもらおうと思ったんだ

でもね
風は僕の広げた両腕をすり抜けて行った

ただ僕は寒くなっただけ

今はパパと二人で暮らしてる
ママの写真は冷蔵庫に貼ってあるよ
僕とパパと三人で写ってる
ママのお膝に僕がのって

もう二度と
ママに抱きしめてもらえないんだね

分かっているけど
時々そう思うと
涙が出るんだ

あれから
僕は一度も誕生日を祝ってもらってないよ
だってあの日は
不吉な日だから
そしてママの死んだ日だから

どうして僕は
あの日に生まれちゃったんだろう

僕の誕生日だから
あんなことが起きちゃったのかな

僕のせいでママは死んじゃったのかな

そう言うとパパは怖い顔して
絶対に違うって
僕を痛いくらい抱きしめるから
そしてパパが泣いちゃうから
もう言わないことにしてるんだけど

でも
もしかしたら
そうなのかもしれないって
僕は思ってるんだ
パパには内緒だよ



あの日
ママは誕生ケーキを買って来るはずだった
四角くてイチゴが四隅にあって
もちろんバタークリームのいっぱいのってるやつ

僕が六本のろうそくの火を
吹き消すはずだったんだ

だけどあの日
ママはビルの63階で
風になっちゃった
炎に包まれて




あれから僕は
年をとれなくなったみたい
だって
誕生日のお祝いがないから




パパの嫌いな
そして僕の大嫌いな
僕の誕生日
September,11




自由詩 September,11 Copyright 広川 孝治 2008-09-11 22:18:32
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