もの言わぬ人
かんな
テレビの電源を
オフにする
それだけでは
現実と私は切り離せない
と知ると
カーテンを開け放って
現在と対峙する
朝焼けも
夕暮れも
物悲しく過ぎた日の
言葉を吐くことを
一概には
良いとは思えなかった
夜だ
カラン
とコップの中で
氷が鳴ると
雫が過ぎ去った夏の
雨のようである
潤されたのは
心ではなく
過去の方だ
わがままな未来たちが
グラウンドで
徒競走することを
想像する
誰の未来を
応援するわけでも
勝つことに意味がある
わけでもないことに
気が付いた
つもりでいた
一階から話し声が
聴こえる
片耳で受け取る
ざわめき
雑踏にいるような違和感と
対峙しては
三℃上昇した
二階の室温に
秋を忘れる
テレビをオンにすると
私は電波に
流される
流されて海に出る
抗うような
確固としたものなど
なにもなく
現実の足枷に
沈み
そして海の底で
もう物言わぬ人になる