海蛍 (二)
銀猫
渚のざわめきは
ナトリウム灯のオレンジに溶けて消え
九月の海が
わたしの名を呼んだ
絹を広げたように
滑らかな水面が
夜の底へと続くしろい道を見せる
爪先からそっと水を侵すと
ひと足ごとに
身体は海蛍となって溶け始め
青白い光を放つかも知れない
(黄泉への入り口を見つけたがごとく)
散らばった、
わたしだった形は
さざ波に翻弄されながら打ち寄せ
或いは
月に向かって跳ねる、
銀のさかなを縁取ったりする
いのちの欠片を
青白く光らせては消え
静寂の在りかを求め
朽ちた実感も無く尽きてゆく
些細な刺激は
凪のなかにもあって
わたしの指を仄かに光らせる
鼓動が遠くに退いてゆく