海面上昇5
rabbitfighter

人の生を、単純な線にしてみる
すべての線が、平行に走り、交わることはない
それが孤独
すべての人が、もって生まれたもの
人は、人として生まれた
幾千の星が持つ固有のベクトルに似て、
すべての線は各々の輝きを放つ
途切れてしまった線が
まだ伸び続けている僕の線と
併走していた、かけがえのない距離
伸び続ける僕の線と、あなたたちの線
偶然とよんでもいいし、必然とよんでもいいし、
とにかく奇跡だ

いつごろからか、線の記された紙の一番上には、
数字が書き込まれている

8,6とか、8,9とか、9,11なんていう、
数字が。

たくさんの線が同時に切れて、その後には永久に空白だけが残る
そんな空白を思うのは、とても寂しい
それにそんな空白は、いたるところにあって、
それぞれの空白に名前でも付けてやろうかと思う
でも、そんなのは不遜だ
そんな作業は、遠くから紙を眺めているだけの誰かに任せればいい
僕の線はその紙の上にあって、今この瞬間も延び続けている

伸び続けている。
60億の線が、いまこの瞬間に、平行に並んで走っている
60億が、80億になって、120億になって、
やがて迫り来る海面にすべてかき消されてしまうかもしれない未来に、
僕の空白が、あなたたちの空白が、その瞬間に触れるんだ


自由詩 海面上昇5 Copyright rabbitfighter 2008-09-08 21:45:00
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