壁のポスター
水町綜助

この部屋の中にアナログ時計はなく
壁には40年近く昔の音楽祭のポスターが貼られているだけ
花に囲まれて幸せそうな
薔薇の花冠を被った骸骨の
風化させる横流れの青い光に
少し小首を傾げた笑顔

一年という時間の中に
体温という放物線を描くなら
時折の例外を除いて
夏から夏への繰り返しを
もう片手では足りないほど
ある一つの夏から数え

そこからはもう同じような高さ
ちょうど郊外のニュータウンの屋根の並ぶような
丘の上から見た平熱

ある一つの町にいる
そこから海も見た
いまその町に暮らして
ここに移り住み
海へ行き
島へ旅行で渡ったりもした
山はあまり好きではないから
行かない
理由はわからない
パンを焼いてかじるように
海へ行き
山へは行かない

秒針の音は間延びして
不揃いで
いま少し寒い
山の朝と夜は寒い
そういうことかもしれない
日なたへ座る場所を移そう
あと少し右か左へ
そうすれば
もしも戻る方角なら
この町から
あのいま住む町へ
暑すぎる夏を
浮かべた

笑顔を傾げた小首の
青い光に横流されて風化させられる
骸骨の被った花冠の薔薇
幸せに囲まれた花
貼られているだけのポスター
40年近く昔の音楽祭の壁にはない
アナログ時計の中にこの部屋
僕は日なたの方が好きだ







自由詩 壁のポスター Copyright 水町綜助 2008-09-08 01:39:12
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