終わりの夏
二瀬

窓辺の四角い夜に うなだれた手をかざすと
しずかに風は 
終わりの夏を打ちつけてくる

部屋中を駆け巡る息づかいは
いつもそこに置き忘れてあるから
死をつつましく夢の先に灯して
ただ耳をすましています
そしてときおりわたしは、あなたの静けさを
わたしのなかに垣間見ているのです

忘れることは罪のようでした
忘れないことは義務のようでした

窓辺の外に身を乗り出せば
一面にしかれた夜の先に
月の光がこぼれ落ちて、花が咲いた
なぜ離してしまったのだろう
ひとり手のひらを耳に当てる

まだそこにあるかもしれない

耳の奥で、昔の姿を探し出そうとして
風があなたとのあいだに、にじむ
きっとこれから
わたしはわたしの
朝を生む
いっせいに放たれる
あなたの知らない秋を
わたしはうたう

あなたはわたしを知らないといった

すべてのあしたが
隣り合う夜のあいだに
あますところなく消えていくのですか
しずかに私が問いをささやいた時
あなたはいまも、昔と一糸変わらぬ姿で
きいている

まるで枯れ木のように、空洞を身ごもっては
ひとつ、
またひとつ、
眼下に透明な花ばかりが咲きほこり
夜の窓辺に
終わりの夏が、立っていた



自由詩 終わりの夏 Copyright 二瀬 2008-09-08 00:39:28
notebook Home 戻る