気圧の谷の憂鬱
nonya

雨上がりの
ささやかな庭で
どうしても
名前を思い出せない虫が
りゅう、りゅう、理由と
鳴いている

僕は滞った雲に
力なく視線をあずけて
ありもしない
翼の付け根あたりを
かり、かり、仮と
掻いている

気がついたら谷底だった
暑い季節から滑り落ちていた
掠り傷ひとつなかった
誰も教えてくれなかった

僕の言葉が浮力を失った
本当の理由は知っている
僕の今日の有様が
仮の姿じゃないのも知っている
けれど

ここは
たまに自律神経が
出張サービスしてくれる以外は
思っていたより
居心地が悪くないので
困ってしまう

しばらくは
レトリックの湿地帯に
これでもかと生い茂った
勘違いを食い散らかしながら
ぼそっと
生き延びていこうと思う


自由詩 気圧の谷の憂鬱 Copyright nonya 2008-09-07 00:15:35
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