朽木のように
智鶴

暖かかった記憶の季節を
セピアの幻想に委ねた
涙も出ないまま
現実と幻想の区別もつかなくて
僕は狭間で漂って
たまによく知らない歌を口ずさむことくらいしか
出来なかったんだ

それでも未だに
燻ることも覚束ないほど
弱弱しく
草臥れたような映像を見る度に
ちらりちらりと浮かび上がって

僕を殺してくれない

見えなくなってしまいたかった
現実に酷似しすぎている僕の確かな感触が
映像を跨ぐ暇もないほど
鮮やかに
煌びやかに
残酷なくらいに僕を生かして

美しく見えないように
出来るだけ粗末に扱うふりをしながら
たいそう大事に鍵をかけた
そんな嘘を、僕はついている

今も
深層の僕の表情は
きっと誰にも分らないままだよ

そう考えると
ほんの少しだけ
僕は笑えているんだ


自由詩 朽木のように Copyright 智鶴 2008-09-06 02:48:14
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