八月の絶唱
飛鳥 彰

短歌 「わが友に贈る歌」



ペガサスの
飛ぶがごとくに便りあり
ミッドナイトの花の香のせて


麗しき君は十九歳(じゅうく)の
薔薇の花
昇る朝日にその身かがやく


君が身を船にたとえて
歌を詠む
白き帆船(ふね)ゆく海は洋々


ドルフィンを従え走る帆船は
歓喜(よろこび)みちて
潮に酔うなり


君や知る
ブルームーンと名づけられ
月下に碧き薔薇の咲きたるを


サクランボ
薔薇のつぼみと見ゆるかな
乙女は熟れたる桜桃売り


さおとめも熟女もうたえ
薔薇の花
時間をとどむるもののなければ


わが魂(たま)もいざ覚醒(めざ)めよと
ひらきたるは薄紅色の
薔薇の瞼よ


いやまさむ
日にも月にも色染めて
とどめ置きける薔薇の文箱(ふみばこ)


ときめきと色こそ競え
薔薇の花
名だたる群れに先駆けしつつ


ペガサスのこころのままに
飛びきたるキミが封書は
薔薇の香(か)うまし


流星の天空翔(か)けるすがたして
はやてのごとく
文(ふみ)はきたりぬ


煌々と天座にひかる
星の海
キミもあそべや我とまみえて


ポエケット
げになつかしき響きあり
かつてはわれも詩書売るひとり


蝉しぐれ
残暑の木々をふるわせて
今を限りといのち果つるまで


詩人(うたびと)は夏の夜空に
ふりそそぐ流星群を
金のしらべに


天座より流星群のふるごとく
はやてのつばさ
舞い降りきたる


うるわしの
金星(ヴィーナス)空にかがやけば
何はなくともめでたかりけり


宇宙(そら)の海
航海やする うつし世の
詩人(うたびと)独り勇者のごとくに


花火より愉しきことありこの夏は
choriのライブを
誰か知らざる


いざやゆけ
いざや来てみよ
八月の八日はchoriのファイナルライブ


キミや知る
京の都に聞こえたる
紫式部とchoriのパフォーム


飛鳥さん
とキミのママが手をのべて
微笑みうかべたる葉月うるはし


わがために詩を読むキミの
さわやかにドラマの幕の
あがる合図と


十七歳(じゅうしち)のキミが詩(うた)読む
海の家(VOXhall)
八月八日は天井桟敷に


果物も花束もなき歌なれども
キミに贈るのは
わがこころなり


やわらかに雲より光の射すごとく
祝いの歌の
キミに届けと


バースディー
樹々に小鳥もさえずれば
空は青々 海は洋々


不思議なる
一夜かぎりのレース編み
神の御技か カラスウリの花


巧みなる
手織り職人のなせるごと
レースの花の不思議さうまる


八月の夜に咲きたる
カラスウリ
レース模様の白き花なり


月見草に
似たる花とて うるわしの
夜に咲きたるはカラスウリの花


カラスウリ真昼にしぼみ
夜に咲く
恋する人のショールのごとくに


いまに咲く
此処に咲けよと祈れるは
愛し子はぐくむ母のごとくに


夢のごとく
ついに咲きたるカラスウリ
レース模様の葉月の花は


夏風の衣の下に生まれたる
君は詩人(うたびと)
旋風(かぜ)を起こせよ


誕生(うまれ)たり
終戦記念をきざむ日に
産湯のなかに詩(うた)を叫ばんと


いま在(あ)るは
生まれたる日より生命の
詩(うた)を紡がん使命のままに


幾山河
踏み越えきたる君なれば
苦悩つきぬけ歓喜に至れ


草に伏し宇宙(そら)をあおげば
銀河なる星の海ゆく
詩人(きみ)は航海者(たびびと)


きょうは君
三十二歳の誕生日
詩(うた)の帆をあげ舵輪を回せ


詩の船を浮かべて走れ
運命の扉を開くのは
思いのままに


われ祝す
君が船出のこの記念日
いざや詩(うた)はむミューズのごとくに


しきたりを守らんほどに
疲れたる君が顔(かんばせ)
浮沈の色あり


久方に会えばなつかし
語らいを笑顔につつみ
盆をたのしむ


去りがたき里を離れて
夜はあけぬ
疲れを癒すわが旅枕



短歌 「お夏清十郎悲恋物語」


しきたりを破らんとして
駆け落ちをはかりたれども
叶わぬ恋路よ


清十郎
悲しき濡れ衣着せられて
罪を背負ひて いのちを終わる


悲しくも刑死を知らぬお夏独り
求めるほどに
こころ狂ひて


かくほどに一途に求める
恋心 引き離されたる
うつし世あわれ


空蝉の鳴くがごとくに
狂い咲く
お夏かなしや悲恋の果てに



短歌 「花火」

ゆく夏の過ぎさるままに
ひとはみな花火に酔ひて
我を忘るる


知らざるや
襟足に吹く風見ては
花火のあとに夏の終わると


狂い咲く
夏の夜空に花嵐
散らしてすぎる時のゆくまま



短歌 「空中回廊」



夏来ぬと汗を拭ひて
空あおぐ今朝のしじまに
夾竹桃立てり


たわわなる
神戸に珍し青りんご
見つけし歓び望郷のうた


湾岸の
空中回廊まぶしけれ
夏を貫くひと筋の道


早乙女の笑みを思わせ
サルスベリ
夏空を抱く花の腕かな


係留の船はしずかに
ならびおり
夏の朝ゆく我はそぞろに


陽をいだき湾岸走る高速の
道も焼け焦げ
たそがれ迫る

そぞろあるき夏も楽しや
百日紅
今日見る君はなんとうるはし


うつし世にかくもうるはしき
花あるか酒はあらざれど
君に酔う我


まだらなる君が肌えの色白く
葉もすずやかに
夏をことほぐ


眼に白く遠く見ゆるのは
湾岸の高速道路
天地をわかつ


今朝もまた
神戸の街をモノレール
数多の劇を乗せて走り去る


夏の朝
青木の町の公園にひとり見ており
不思議なものを


大学の構内の木々
いや高く夏空埋めて
みどり葉繁る


カサコソと踏めば音する
足許に落ち葉が歌う
夏のメロディー


松そびえ住吉川の
水辺にてそぞろ歩きする
休日光景


にぎやかに夏を彩る
ランデブー
今朝から蝉の時雨聴きおり


青柿のみのれる季節
ゆたかさを予感させつつ
夏はさかりと


葉のかげに
ものめずらしやイチジクが
実りつつあり夏の思い出


建設の槌音高く
高層のマンションなるか
夏のわが街


朝ぼらけ
遠くかすむのは六甲山
道ゆく車輌と夏の住吉


朝ぼらけ やがて消え去る金星を
追いかけている
我は 空蝉


知らぬ間に咲いていたのか
サルスベリ
文月終わる今日のこの日に


薄紅のこうべを垂れて咲くごとく
我もかくあれ
サルスベリの花


仕事終えチャリンコこぎつつ
坂道をのぼりついたら
あら百日紅


潮風と朝日にかがよう
サルスベリ
空は底抜け薄紅ゆれる


うたた寝を嵐のごとく襲いきぬ
夏雷のあとに
サルスベリ咲く



短歌 「八ヶ岳旅愁」  


白樺の伸びる芝生に
ひかり射す木洩れ日あわく
木立の影舞う


コナシの木
花にもまさるこの夏は
みどり噴きあげ 思い溢るる


雲海に遠くかすむのは
男山 並びいたるは
天狗山なり


ちらちらと花暦めくり
すかし見る
雲海に浮くふたつの山影


昼さがり道路の脇に
見つけたる薄むらさきの
ツリガネニンジン


釣り鐘のかたちをなせる
花のあり 薄むらさきを
可憐にまとひて


美鈴池 ここから見ゆる八ヶ岳
草つゆ踏みて
我は手を振る


八ヶ岳高原ロッジへ
四?と道しるべ立つ
くさはらやさし


腐らずとも黄色い花なる
クサレダマ 夏のひかりを
まとうがごとくに


ひとはみなネイチャーウォーク
愉しめり
八ヶ岳にふる風とひかりに


野鳥らは雨の晴れ間に
とびまわり
ヒガラの子らも小枝にあそぶ


薄紅の雲のようなる
シモツケソウ
葉月の夢をこぼして咲けり


脱皮せるコエゾゼミあり
きみどりのうるわしき羽根
幹にひかりおり


抜け殻を空蝉と呼ぶ
むかしより生身なき身の
偽りの宿


高原の花をもとめて
とびゆくのは 豹紋蝶と
いう名の蝶なり


ユリ科なる
咲くやタマガワホトトギス
鳥にも似たる斑点まぶして


目も彩に
ヒュッテの近場に咲く花は
マルバダケブキ黄色が躍る


白樺にはりつき鳴くのは
コエゾゼミ
節なくギィィーと鳴きまくるかな


くさむらにオレンジ放つ
コオニユリ
目もあざやかにたたずみており


雲ながれ風もすずしく
吹きよせるイケマの花の
白き雪洞(ぼんぼり)


遊歩道
音楽堂へそぞろあるき
ツリフネソウのむらさきをよむ



海ノ口の自然郷の遊歩道
あいまみえたる
マルバダケブキ


水きよき美鈴池より
眺めれば八ヶ岳見ゆる
寝そべるおとめに


池までの道を歩めば
ひっそりとハクサンフウロの
花は咲きけり


みどりこき美鈴池まで
みちすがら黄色こぼして
キリンソウ立てり


朝萌ゆる
ヨツバヒヨドリにとびきたる
蜜吸う蝶のアサギマダラよ


高原の
木の葉の間よりふりそそぐ
木洩れ日いとしクサレダマあり


さわやかな風の中なる
ヤブジラミ
白い花こそ道を照らせり


みちすがらコウリンカあり
歩をとどむ
オレンジ帯びし長舌の花


ましろなる壁もうるわし
高原のヒュッテにつどいたる
夏のたびびと


ロッジへの道のなかばに
夕暮れて赤岳もゆる
木の間がくれに


ロッジ打つ烈しき雨と
落雷に 時空は裂けて
残響さわがし


香もつよき
ロッジの前にリョウブあり
木肌の色に虫らさそわれ


美鈴池
蒼穹(そら)の碧さを映しけり
木々のかなたに八ヶ岳見ゆる


クサフジの
青紫のグラデーション
天使の落とす羽根のごとくに


旅路ゆく恋なき人の
草枕
クサフジ色の涙に濡れる


八ヶ岳高原こそは悲しけれ
友の恋歌
ワレモコウの花


マツムシソウ
一輪咲きて青々と
夢をちらせよ夏の旅路に


おもしろや蝮に似たる茎模様
ひとも名づけて
マムシグサと呼ぶ


野に匂う赤むらさきの
ネジバナは悩めるごとく
螺旋に花咲く


ノアザミにいでたち似たる
タムラソウ
とげなき花のむらさきかなし


幽霊の手かとみまごう葉をもてる
返魂草(はんごんそう)の
黄花つやめく


羽根たたみトンボとまれる
ワレモコウ
赤き毛糸の帽子のごとくに


すいすいとトンボ飛び交う八ヶ岳
虫取り網と
カゴをもつ子ら


果実にはカギ形のとげありいまは
水引に似たる
キンミズヒキの花


夏山の林の日陰に
咲くというミヤマモジズリ
むらさき匂う

楕円形の葉も青々と
すがすがしミヤマモジズリの
ねずれずに咲く


キジバトはロビーの前の庭に来て
餌をついばむ
カワラヒワとも


そぼろふる雨に濡れたる
白樺の木肌目に染む
乙女さながら



短歌 「アップルパン」


キミや知る
マクドもロイホも食べ処
知らぬはおれの昭和のあたま


いまや知る
マクドもロイホも手の内と
癒しの空間 紡ぎ出す詩(うた)


いつかまた食べようねって
キミが言う
マクドのマック コーラが似合う


食べるなら
つぶあん 黒ゴマ アップルパン
母の笑顔が思い出さるる


手触りを確かめつつ
チーズパン
北海道の天地を偲び


空腹を癒してくれるパンならば
粒あんひとつ
なにはなくとも


我えらぶ
美味なるもののあるうちに
アップルパンに故郷(くに)を偲ばん



短歌 「八ヶ岳追想」


八ヶ岳の土地を拓きし
彼の人は紳士なれども
胸は はがね板


傍目には紳士と見ゆれども
労働で鍛えしからだ
胸板厚し


避暑地にて
キミが味わえしフルーツ茶
一度は飲んでみたくなりたり


白髪も笑顔もやさし
彼の人の
八ヶ岳の店 林のなかに


八ヶ岳倶楽部のテラスに
木洩れ日をうけて書を読む
ロッキングチェア


食後には
日射しさえぎる林ゆく
そぞろ歩きに花と蝶になり



短歌 「八月の絶唱」


夢に見し
かつてのキミに会うがごと
胸にとどろく海は夕焼け


朝をゆく我を呼び止め
会釈する朝練のキミ
萌ゆる百日紅(はな)の顔


サルスベリ
かくもゆたかに咲くやキミ
夏の嵐に磨かれておりぬ


あわじろく光をあびて
夏のキミ 吹きよす微風(かぜ)に
髪を揺らしつ


貴婦人の
こうべを飾るかんむりに
劣らず光る花のかんむり


しなやかに天空に伸びる
キミなれば歌わずにおれぬ
夏空めがけて


たおやかに
枝をしならせ咲く花の
枝垂れ桜に色のまさるよ


キミも見よ 我も見るからと
匂い嗅ぐ
花の乳房に顔を埋めて


かにかくに
美しかりけりサルスベリ
天よりくだる羽衣のごとく


ともだちよ キミも来て見よサルスベリ
のどけからまし
手弱女(たおやめ)の花


祝祭のうたを奏でて
花嵐 狂いて咲ける
ひと夏の恋


いつみても
微笑み絶やさぬキミのごとく
天空に昇り 雨と降(くだ)らん


空中に
泉の湧くが如くして
花あるキミの歌は豊饒(ゆたか)に



短歌 「津軽の思い出」


イエローの才媛のキミ
現れて檸檬(れもん)のごとき
香り振りまく


思い出す
少年のころの十五歳
檸檬片手に詩をひねりつつ


キミが好き
と打ち明けしひと 数あれども
わたしも好きと応うる人なき


さみしさと悲しさを超え
詩をうたうわれは十六歳(じゅうろく)
学舎(まなびや)飛び出す


年経るといまはむかしの
語り草 悲恋も花の
散るが如くに


わが胸に轟くものはふたつあり
海潮音と
詩聖の言霊(ことだま)


とこしえに宇宙(そら)の海ゆく
航海者(たびびと)は
他者にあらずに地球(ほし)に住む我


睡蓮は
モネならずとも頌(たた)えなん
水面(みなも)にひらく孔雀のごとし


君や知る
水面に顔をつきだして
光を放つのは 睡蓮の花


円き葉を水にうかべて
咲く花は いとも可憐な
睡蓮なるかな


いまもまた思い描くのは
睡蓮の水面にうかぶ
黄金(きん)のたそがれ


光あび水面にひらく
睡蓮の花びら白く
尊(とうと)かりけり


夢見るも睡蓮かなしや
恋語り
ひらくことなくわが恋終わる


青森の合浦(がっぽ)公園かなしけれ
睡蓮咲くも
わが恋みのらず


陸奥湾(むつわん)の波はとどろき
空をゆく白鳥かなし
睡蓮恋うるも


やわらかに
タイサンボクの白い花
花びら閉じて今は眠れる



短歌 「若き女流詩人に」


チョコレート
食べずに生きているキミゆえに
こんな素敵なショーは生まれる


禁煙も禁酒もよろしき
食べるメシ
吐くこともなくちゃんと食べられ


チョコレート
その存在を忘れたるは今までなきこと
不思議なるかな


この頃は薬も飲まず
漢方とビタミン剤で
楽に暮らせり


果てしなき修行も我を創るため
いまはこの苦も
未来(さき)の楽と成る


かにかくに小さきことの積み重ね
鍛えしこころ
美しくたもつ


手持ちなし
なにはなくとも与うるは
歌の一首とひと粒の光


生活費
小遣いぐらいはみずからの
手で稼ぎたいとキミはうそぶく


思い描く
ひたいに汗し稼ぐ我
饗宴(うたげ)に招かれプレゼント受ける


夢見るのは
この手で稼ぎたる金で
友にご馳走 プレゼント贈る


独り立ち
夢見るキミはおとなびて
美しき羽根の雛鳥のごとく


夕食後
電気を消して月を見る
キャンドル灯せば世界が歌う


月見酒
いつかふたりで飲めるなら
トマトのはなしをしてもいいかな

かぶりつく真っ赤なトマトは
目覚めさす
われも生き物 熟れてあれかし


もぎたての赤きトマトを
ほおばれば 心にじゅわあっと
陽が昇るかな


うごかずに闇のしじまに
われひとり座して月見る
振り子が止まる


闇の中 月の光に癒されて
わが身いたわる
こころゆたかに


乙女ゆえ鏡はいのちと
我思う
夜に月光 夜想曲かな


言葉添え花にいのちを
吹き込むか
言霊(ことだま)燃ゆる詩人(われ)は此処にと


火の鳥の詩人と云いしは
我なるか
人の見ざるを我は見るなり


火の鳥の詩人の我は
想像のつばさひろげて
自在に宇宙(そら)翔ぶ


わが胸に不思議の泉
あればこそ湧くがごとくに
ことば噴き出る


ほとばしり湧き出る言の葉
十重二十重ひかりを浴びて
虹となれかし



短歌 「舞姫リリィ」


木屋町のアバンギルドの舞台にて
舞姫おどる
飛天(ひてん)の如くに


天女かと見紛(みまご)うほどの
舞台かな
花あるキミの舞いは優雅に


舞踏曲
奏で踊るのは うつし世の
春夏秋冬 日月(にちがつ)の舞い


しなやかに身を踊らせて
華やぐよ
撓(たわ)わにみのる果実の如くに


秘めやかに艶あるしぐさ
顕しつ
舞いおどるキミのなんと幽遠


たおやかに秘伝を納めて
舞いおどる
月下に弓のしなるが如くに


風が舞い
水の流れる風情あり
キミの舞踏に白鳥(スワン)は降り立つ


落日の空を焦がして燃ゆるごと
舞踏のキミの
血潮の響きは



短歌 「薔薇園に遊ぶ」


とこしえに
キミも恋せよ乙女なら
サンブラ色して街を染めてゆけ


サンブラのイエローひかる
薔薇ひとつ
ゆたかに髪を束ねていろよ


花閉じて
ダブルデライトつつましく
朝を待つかな貴公子然と


ふくいくと空に身を焼く
アルフォンスドーデの花は
飛鳥美人か


カクテルと
名づけられたる薔薇の花
空飛ぶ蝶の狂いみだれて


はなびらを閉じて何待つ
サマンサは身を焦がしつつ
憂いあふれる


サマンサと呼ばれて振り向く
キミひとり夏を留めて
恋はバラ色


ふちどりを
紅く染めける薔薇のひと
髪結いキミの恋は迷宮


美しきダブルデライト
いま此処に書を読むキミと
かさね見るかも


わが園に紅き貝殻あるゆえに
海のとどろき
胸に響かす


薔薇一輪
内部に隠れしものあれども
身を乗りだして外にあらわる


つる薔薇のアンジェラ愛おし
恋よせて祝祭のうた
キミに届けと


てのひらをひろげて待つのは
日の光
わが身に降るのをアンジェラ祈らん


ツル薔薇の
真白き帆影みるごとく
サマースノーとひとに歌われ


夏の雪
降るためしなどあるのかな
実(げ)にも眩しく薔薇は咲くかも


アリスなら不思議の国へ
つづく道ここに求むか
ニコールさざめく


さざなみを空に放てる
薔薇の花
波紋一つに千の思いを


夏空を紅雲(べにぐも)染める
かのごとく乙女らつどいて
薔薇と香るよ


頬そめて淡くピンクを浮かべおる
キミはピエールド
ロンサールかな


いまもなお
蕾したがえ咲くやキミ
ピンクフェアリー微笑む色にて


此処かしこ
ピンクフェアリー群れつどう
三人姉妹の薔薇を愛でつつ


夏空に
ブライダルピンク装いて
華やぎいくはヴァージンロード


フリージアに
似たる花とて薔薇の君
イエロー讃歌の夏を祝して


不思議さを
花に包みて隠しおる
キミは五月の青き月かな


ブルームーン 
と名づけられし薔薇のキミ 
泉の湧くがごとき顔(かんばせ)


マーガレットメリルのキミは
白無垢の花嫁のごとく 
清楚華麗に


日射し浴び
みどりの湖(うみ)に浮くキミは 
スワンの羽根をひろげ舞うかも


目覚めれば
つばさひろげて翔び立つや
朝日に匂う瞼開きて


夏きたり
ラブと呼ばれたる薔薇のあり
巻き毛のキミを愛に染めてゆく


キミとゆく薔薇のアーチを
くぐり抜け
其処(そこ)は秘密の花園なるかな


燦々と光り溢るる
薔薇垣を眺めつつゆく
恋歌ひびかせ



短歌 「瀟洒な花たち」


黄色なる
青梅線の電車ゆく
山岳地帯は夏のさかりと


御岳の展望台あり
目に白く群生している
レンゲショウマよ


瀟洒なる
レンゲショウマの白き花
緑に映えて山岳いろどる


ケーブルで
御岳山頂駅前の
広場に着けば神楽にぎやか


広場にて青梅神楽の催され
ひともたたずみ
夏祭り祝う


御岳の渓谷走る
カヌーあり
水清くして飛沫(しぶき)飛び立つ


青き実をつけたるキミは
何の木か
それは知らぬが いずれ熟れてゆく


藤の木か
くねりとねじれ幹は曲がり
つよく昇って 天を支える


細長き実をぶらさげて
藤棚は
葉月の終わりにひとを憩わす


公園の隅に咲きたる
黄色い花
日射しをあびて 影を泳がす


蛇のごとく地面を這ひたる
藤の根は
棚をみどりの海に変えてゆく


ふしぎなる紅き実のごとく
咲きし花
夏の終わりに 血潮うねらす



短歌 「自然の祝祭」


黄金郷(エルドラド)
と名づけられたる睡蓮は
水上に舞う踊り子のごとし


水ぬるむ熱帯スイレン
いくえもの金のつばさで
するどくはばたけ


蘭室の友に交わる心地して
気高き大志(こころ)
香り豊饒(ゆたか)に


蘭咲きて
薄むらさきの羽根ひろげ
揚羽蝶のごとく風をおこせよ



短歌 「恋歌にのせて」


都賀川に足をひたして
トロンボーン
吹く早乙女は技術(わざ)を磨きおり


夜もすがら君がみ胸に耳添えて
聴いておりたや
波打つ鼓動を


星月夜 
更けてゆく秋の窓辺にて
ふみ読む君のなんとうるわし


虫の鳴く秋の夜長に
面影を抱いてしのぶのは
花の盛りと


秋の夜半 
虫の恋歌聞きおれば
我に湧き出る恋の調べよ


君が声 しじまに聞こゆる
あけぼのの
明星 凛と 独り燃ゆれば


寝もやらず歌よむ我の
思慕ふかし
秀麗無垢の君がシルエット


不思議なる君と我との絆ゆえ
秋の岸辺の
水の音さやけし


肌寒き秋の夜風もなにかせん
君が恋しと
わが胸燃ゆれば


しじまなる秋の夜更けて
あかつきの
間近なるとき君を夢みる


朝まだき
君が笑顔のシルエット
明けのヴィーナス映すがごとくに


メール打つ君が指先
思い出し
瞼にうかぶ秋の金星


朝焼けに向かって独り
立っている
指を絡ませ歩む日いつかと


松林この道歩めば
何がなし
君がこころが ああ偲ばれる


松高く 林の中に佇めば
聞こゆるものは
鳥のさえずり


わが王者たもつ宝剣
この智慧は
君を護るか永遠の僕(しもべ)と


日は昇る 
君と我とのゆく秋を
紅といろどる歓喜の光彩(ひかり)


去るもよし 
ゆめまぼろしのホトトギス
血を吐く思い 我は捨てずと


秋ふかく空にさえずる鳥あれば
詩を響かして
我も応える


じょうじょうと君が恋風
ふきよせて
我の胸うつ詩劇は踊る


君待てば
空にそびえる松見ゆる
松に劣らぬわが恋の歌


君を待つ 
松の樹高くそびえたち
空は碧々 秋は煌々


恋おうぎ 
夢にも忘れるな うつし世に
広げて踊れ 歓びの劇


秘めやかに抱かんとせしも
膝枕 わがうたた寝の
夢と消えてゆく





短歌 八月の絶唱 Copyright 飛鳥 彰 2008-09-04 15:28:18
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