リフレイン ー十二歳の受難ー
渡 ひろこ
そんなこともあったっけ…
あれは息子と歩んだ道
四谷大塚の教本や模試の受験票が
ジグゾーパズルのように
断片となってパラパラこぼれていく
うまくつながらないのは
終わってしまったものだから
あのときの痛みさえも遠雷のよう
なつかしい疼き
反芻してゆっくり食んでいるうちに
今 また ぷっくりと
赤紫の腫物が頭をもたげる
気づいたら薄皮一枚 かろうじて保つ
すでに重たげな実
思いきってひと刺ししたら
グシャッと返り血を浴びてしまうだろうか
ぬらぬらとたれる赤黒い液体が汚すのは
わたしだけでいいはずなのに
鉾先は そう いつも
やわらかいまっすぐな芽
中学受験。
敵は偏差値ではなく
幼い鍵爪
塾仲間から離れて一人バスに乗り
針のようなヒソヒソ話を避け
うつむく細い背中
娘から滴る見えない擦り傷の血に
あわてて吸い取り紙になって
覆ってやっても
パズルのピースが
再びつながっていく