夏の終わりという駅で
皆月 零胤

疲れ果てて
色褪せた
繁華街の朝を通り抜け

ガラガラの電車の
ドアのすぐ側の席に座り
手すりに頭を預けたまま
揺られる

 満員電車とすれ違うたび
 何かが足りないような
 そんな気がする

 大切なものはきっと
 いつかの電車の中に置き忘れた


隣から向こう側のドアまで続く空席を見ていると
行き先が何処だったかも思い出せなくなり
堪らずに降りてしまう

 あんな青空みたいにはなれない
 そう日陰で思っていると
 何かが水蒸気で線を引いて
 空を横切ってゆく

 吐き出した煙草のケムリは
 迷わず空へ昇ってゆくけれど
 風に流され散ってしまい
 雲に変わることもなく消えてゆく

青色の残像を瞼に残し
この胸を低温火傷させ
夏のカケラを地面に転がし
雲ひとつない青空で
太陽は
真っ白に
冷たく凍りついてる

 たとえ日溜まりの中でもきっと
 僕は溺れてしまうだろう

 大切なものは
 いつかの電車の中に置き忘れた



行き先もわからない電車を
僕は待っている

夏の終わり
という駅で


自由詩 夏の終わりという駅で Copyright 皆月 零胤 2008-09-03 16:44:27
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