入浴
小川 葉
風呂の戸を開けると
いつかの僕が
髪を洗ってる
背中を洗ってあげると
ありがとう
そう言って
妻がしてくれてると思ってる
湯船には
いつかの祖母が入ってる
髪を洗う僕にも
その背中を洗う僕にも気づかずに
ただ湯船の中で
じっと目を瞑ってる
風呂の戸を閉めると
いつかの僕にとてもよく似た
赤い体の父がいる
ビールでも飲んだのか
赤ん坊のように
小さな体で
僕は風呂の中で
家族とは何かについて考える
二階の部屋から
妹の声が聞こえると
生まれた人だけが
家族であることがわかる
風呂の戸を開けて
母が心配そうに僕を見てる
ちゃんと生まれたのかどうか
確かめているように
誰もが息をしてる