貴方が好きでいてくれる
私のままでいたいの
屋上、太陽、揺れる水
雨上がりの屋上。9月の放課後。
貴方がどうしてもと言うから、楽器の練習に付き合ってあげることにした。
4階の階段を上がって、金属の扉を開けた。
「ありがとう」
秋の太陽が、暮れかけている。
貴方はそっと、鞄と身体を起こした。
水溜りが、風で揺れる。
誰もいない屋上。
蒼と橙の空に、沈みゆく太陽。
奏でられる音に、震える水。
貴方の奏でるユーフォニウムの音が、遠くに聴こえる。
「転校するんだ」
ユーフォニウムを奏でる不器用な指、
好きだったよ
楽譜を見詰める真剣な顔、
もう、会えなくなるかもね・・・
貴方から零れだす、
遠くの街に行くから
決して上手いとは言えないけど、
ごめんね、本当に好きだった
優しい音。
―貴方が好きでいてくれる、 ―君を好きでいられる、
私のままでいたいの。 自分のままでいたい。
ユーフォニウムの音が途絶えた。
水溜りに、波紋が広がった。
―今の私のままで、時が止まってくれたらいいのに。
―今の2人のままで、時間が止まってしまえばいいのに。
フェンスが無くなった場所で、
私たちはどうするのかな・・・
2人の視線が交わったままで、
2人の呼吸が重なったままで、
2人の全てが繋がったままで。
ユーフォニウムの残像が、消えた。
屋上、太陽、揺れる水