いのちの綱
服部 剛
「 よいしょぉ・・・! 」
どしゃぶりの雨の中
三人の男は
橋の欄干にぶら下がり
川へ落ちそうな独りの女を
心を一つに、引き上げた。
(ソノ時彼ハ、ジーンズノ腰縁ヲグィット握ッタ)
飛び込む場所に置かれた女の傘が
嵐に塗れた歩道に、転がっていた。
唇から一筋の血を流した女は
二人の男の間で肩を借り
近くの庵へと連れられ
ずぶ濡れて力の抜けた
女をソファーに休ませる
(ソノ後彼ハ、近クノ芭蕉稲荷ノ赤イ鳥居ヲ潜リ
在リシ日ノ俳人が愛デタ石ノ蛙ノジット構エル姿ニ
両手ヲ合ワセル
「助ケテクレテ、アリガトウ・・・」 )
偉いのは、発見者でも
皆に助けを求めて走った彼でもない
九死に一生を得た女が
最後の力を振り絞って
橋の欄干にぶら下がった
いのち網の両腕と
たった十分の間に
一つの命を助けようと
心を一つに結集した
皆の愛であった