八月の再生
哀詩
一. 八月の再生
それは何故か寒い八月の最期でした。
私は一人、窓という格子に挟まれた中の
限られた空を見上げて、煙管をふかしていました。
すると明け方の空がぼんやり、と徐々に色を浮かし
私の四畳に満たない部屋を
うっすらと端から朱に染めていくのです。
その頃の私は人生にほとほと疲れておりましたが
この閃光をまた明日、見る為にだけは今日を生きていける、と
そう確信したものです。
ニ. 水仙花は刹那
首巻に顔を埋めてほころんだ顔の3秒後、
開けた目にはお馴染みの男の背中がありました。
私が彼を見たのは初めてのことですが
その背中は何故か懐かしく、故郷を思わせたものです。
私は首巻に吹き込んだ吐息の蒸気に眼鏡を曇らせ
薄らむ視界の中心のその男が
如何にかして振り向きはしないものか、と
心中を賑わせていました。
すると後ろで娘が一泣き、
目前の男が振り向くと
それはまるで湖の水面を滑る煌きのような瞳で
私を見透かし、女を見ました。
息み足で私の左側をすり抜ける男からは
白い水仙花のような香りがしたのです。