鬼火
星月冬灯


 この世に未練を

 残した人間(ひと)が

 眠る墓には

 鬼火が出るという


 男にすてられた女

 母にすてられた幼児(おさなご)

 息子に殺された父


 死ぬに死にきれない

 亡霊たちが

 深い闇に支配された刻(とき)

 その思いの深さに

 迷い出る


 うっすらと今にも

 消えそうに

 冬の冷たい風に

 吹かれて

 淡くさえ見える

 業火

 けれど消えたりはしない


 死者たちの念が

 強ければ強いほど

 ちりちりと燃え続ける

 弱そうに見えるのに

 いつまでも

 しぶとく

 朝陽が昇る

 その一瞬まで


 ゆらりと燃える

 青白い炎


 まるで死んだものたちの

 魂そのもの


 そうして

 非道な人間たちを

 誘惑する


 あの火に近付けば

 取り込まれる


 魂ごと全て

 飲み込まれてしまう


 けれど

 愚かな人間は

 その火に導かれるように

 近寄っていくのだ


 美しくも冷たい

 その炎に



自由詩 鬼火 Copyright 星月冬灯 2008-08-30 15:08:10
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