手紙を出しに
二瀬

埃のように浮かんでいる
幾多ものかなしさを
君の代わりに受け取ります

郵便受けにはそんな毎日以外は
何も配達されない代わりに
仰ぎ見た夜空には
少なくとも名前を呼べる者達が
いくつか

封を切られもしない多くの約束が
まだ自己犠牲も知らないまあるい手をふっている
郵便受けは、果たされもしない宿命を抱え続け、
増え続けたさようならの後ろ姿が
どれも区別出来なくなるまで投函される
その数の多さがやさしい人の証さ
ただそう呟いていた

犯人は少女で
いつもこれが最後と手紙を綴っては
愛よ、平和よ、
鴨を撃つ銃声のような死相に先立つ悲しい物音、
に頭を踏み荒らされていた

そんな耳鳴りが瞳の水面を揺らし始めたので、
どこからが家で
どこからが路なのかよく分からないまま
不可抗力が私を通り越して、髪をばらばらにした
あと一歩、左に傾けば
星空宛への切手が貰えるのだと知った

捨てられると分かったような子犬の目をして、
死にたいのです死にたいのです死にたいのです
そう嘆いては赤信号でしっかり止まり
義務観念ですから
とお互いに言いたがっているようなぼやけた群衆の隙間を、
白い封筒を抱えて、ゆっくりと通り過ぎていった



2008. 5. 20


自由詩 手紙を出しに Copyright 二瀬 2008-08-28 17:04:53
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