三本足のカラス
皆月 零胤
その初老の男は
いつも存在と不存在の狭間にいて
人の目には映ったり映らなかったりする
日焼けした肌に
極端な自由と不自由を抱えて
真昼の路上に横たわっている
伸ばし放題の髪で
側に置かれている荷物は
一見大荷物のようだが
それが持ち物のすべてだとすれば
少ないほうだ
いつもカラスのようにゴミ箱をあさり
杖をついてゆっくり歩けば
人の流れも別れ中州ができて
そこに取り残されてしまう
いつかの夜
理不尽な中学生が
男にバットを振り下ろすかもしれない
未来の自分がそうなっているという
そんな可能性すら考えもせずに
男は目を開けると
その虚ろな瞳に美しい青空を映し
通り過ぎていく足音に耳を澄ませる
そして何かを思い出したかのように
微かに透明な笑顔を浮かべた