未来がまだ懐かしかった頃
小原あき
未来がまだ懐かしかった頃
人々はそれぞれの
大切なアルバムに
過去や現在や悩みなどと一緒に
未来を貼りつけていた
わたしたちには
過去や現在や悩みや
未来がこなくなっていたから
それらを開いて
懐かしんでいた
未来がまだ懐かしかった頃
人々は穏やかだった
過去や現在や悩みや
未来がこないわたしたちには
不安もこなかった
進んでいるようで
止まっているようで
戻っているような
そんな時代を生きるというのは
空に浮かぶ飛行機雲が
さっき見た飛行機雲か
違う飛行機雲か
そんなことすら
なんでもないことのように
感じてしまうのだった
未来がまだ懐かしかった頃
人々は人々を愛していた
過去や現在や悩みや
未来のこないわたしたちには
自分と他人の境目がなかった
実際はあったのだけれど
それを見極める手段を知らなかった
いや、
知る必要がなかった
わたしはあなただし
あなたはきみだし
きみはかのじょだし
かのじょはかれだし
かれはおまえだし
おまえはあんただし
あんたはぼくだし
ぼくはわたしだったから
未来がまだ懐かしかった頃
それはいつ頃だったのだろう
今は
過去や現在や悩みや
未来が当たり前にくるから
明日への不安もあるし
自分と他人の境目を
知る必要がある
あれは
空が遠くなって
秋が始まる
飛行機雲の切れ目が
開いたときだったかもしれない
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