未来がまだ懐かしかった頃
木屋 亞万

真夜中の公園
テニスボールで
手遊びしながら
魂の友と話す
吸い込む息だけが
あまりに冷たいので
骨がひやりとする

電灯が月より明るく
ブランコを照らし
静かなので
女の声は頬から
男の声はうなじから
聞こえる
耳は茶髪のなかで眠る

テニスボールを
手首だけで投げ上げる
頭より少し高く浮かび
ブランコの高さは越えず
壊れて消えずに
落ちてきて
手の平にちくり
短い毛足と硬い弾力

会話の意味は
内容ではなくて
声のやり取り
取り入れるのが大事で
吐き出す事が肝要、だった
同じ夜に同じ公園で
洒落た雰囲気を
冷めた骨で味わうこと
ずっと憧れて、いた





夏休みの朝
テレビで見た
再放送のアニメのなかに
確かにいた未来の自分
喜怒哀楽の衝動的な力を
うまく取り込み
たのしめている自分

身体の感覚は
無意識に溶けてゆき
意識が洗練されている
無駄のない自分



雨戸の閉まったままの
少し薄暗い部屋
ラジオ体操のあとで
あくびを噛み殺しながら
毎年同じアニメを見る
スタイリッシュな未来を
膨らむままに想像しては
待ち遠しく思えた

蝉が騒がしく競い鳴き
鳩は巻き舌で笑う
車がマンホールを
踏み付けるたび
ダダンと怒る夏の朝
未来がまだ懐かしく
感じられていた頃


自由詩 未来がまだ懐かしかった頃 Copyright 木屋 亞万 2008-08-27 00:21:11
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