二重星季節 新章
木立 悟






ざらついた
明るさのない
明るい日
写真に
死者に
塗る色もない
そのままの日


岩と涙
価値あるものから伝わらぬ価値
あなたの漂着
あなたの波間
蟻と世界と
翼なきうた


押し寄せる群れ
はざまの光
花びらが苦しい
苦しくない
その器のくりかえしが
言葉なのか
巨大な無数の無のあつまりに
小さくほぐれゆく笑みなのか


あなたのひとつがあなたのひとつに
異なるものの重なりとして
他のいのちのかたちから離れず
けして多くはまたたくことなく
他のまたたきに寄り添いながら
他のすべてよりまたたいている


こぼれている
こぼれつづける
言葉と色と器と音は
同じものとしてまだらにかがやく
晶に銀に水銀に
金に鉛に緑にかがやく


窓から舌の音がする
終わりのない透明に目をふせ
終わりのなさを舐め取っている
音の雨が音の柱を
静かに静かに押しつづけている


葉の裏 曇の火
虫の羽のにおいたち
見え隠れする雨の卵
孵れ 孵れ
楕円の地に
悲しみに
波と流れをもたらせ


風に吹き寄せられるものがかがやき
窓はずっとざらついている
時間を負わない平衡の
片目ふたつ分の明るさが
星のようにあなたをまわり
あなたの朝とあなたの昼
あなたの夜を受けとめてゆく















自由詩 二重星季節 新章 Copyright 木立 悟 2008-08-25 09:05:22
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