食いしんぼうになってやる
ふもと 鈴

酔いはじめ足元ふらつきふと思う声のしわをのばしてみようか

瓶握る力の強さにかこつけて現在彼方に生きる錯覚

来るの、訳ないの土曜日がチヨコレイトとミルクをたずさえ

深夜2時どすんと這いずる闇あたたかく缶コーヒーを転がし続ける

ドロップのおかげで口は傷だらけ思い出すだけ舌をうごかす

新しく買って間もないコーヒーの匂いを思わず嗅いでにんまり

玄米の混ざるご飯を箸でつかみねばっとくいこむ我に返る

ホーローのカップに注ぐ珈琲にスプーン突っ込みカランと鳴らす

コッペパン左右に裂いて信じているあんもバターもまっぷたつと

レタスには何の罪もないはずと芯の腐りを黙って除く

シャッターの閉まった店の奥にずらり無言で暗いクダモノたちよ

地下鉄のホーム脇に捨てられたぺしゃんこりんごヨーグルト

ドーナツをつかんだ手からほろほろと落ちる衣に声ふりかかる

ゴムに似たオムレツフォークで叩き出し悪追い払うホテルの朝食

珈琲の脇に立ちて朝覗く目の中太陽二つたくわえ

女の子と認めてくれた彼の手に小さくなった茶のペットボトル

チョコレート包み紙を開けながら哀しみみんな出て行け早く

いかがわしくまやかしみたいチューハイの開ける音に騒ぐ憂鬱

好きだから飴玉ひとつ手にのせて食べる間進む回想列車

重層の甘い洋菓子崩すから誘い出してよわたしの気持ち

夕闇に青い気持ちをまた増やしお肉屋さんのコロッケを買う

まぼろしのわたくし見つめる販売機ドーナツクリップいつかでるのよ

「ピーナッツ」耳に残る声をして舌を巻くのよ映画みたいに

赤々とツヤピカ太くのっしりとラップにはり付く牛肉ブロック

煮えたぎる豚に勝ち目はないけれど口に頬張り噛み続けている

ひとつずつ取り皿に盛る細かさに生きていくことさえ面倒になる

ソフトクリーム口にしながら歩くとき地球の危機は救われている

ガムを買い包み紙に戻すまで余ったお金は腐っちまいな

約束を忘れていたので炭酸の泡を数えて腹も膨らむ

遂げられぬ想いの中でだしがらが行方をなくし網にからまる

返す返す缶ビールのタブ開ける音会話の成り立つ余地が数多と

向かい合い食べる調子をあわせつつ会話の弾む新宿の街



短歌 食いしんぼうになってやる Copyright ふもと 鈴 2008-08-24 18:07:09
notebook Home 戻る