晩夏五節
Utakata



1.

五線譜の上に
真夏の
影を溶かし込んだ
日焼けのあとに そっと
くちづけをする
あけはなした窓から吹きこんでくる
セピア色に塗り固められた
チャイムの
残響


2.

台風で
空が黄色く濁っている
雷が鳴るたび
決まって誰かが耳障りな口笛を吹く
暗室の中で身を寄せ合った
植物たちがちいさく
からだを震わせては
粘つく花粉が
息を潜める窓硝子を
緩慢に窒息
させていく


3.

眠れないままに
押し潰されて死んでいった
さかなのかたちをした夜の
青白い
腹を一撫でして
羽虫のような
水銀灯の灯りの下で
こどもの形をしたたましいが
腕の中で
あいまいにほどけてしまう


4.

お互いの
刃物のような肩甲骨に触れ合っては
その奥にあるはずの一対の羽根を
さがす
うすら寒い雨に浮かんだ
蝉の亡骸を踏みつぶした足の
感触を
どうしても拭い去れないまま
裸の二の腕に浮かぶ水滴に
首筋が粟立つのを見る


5.

いつのまにか空が
手が届かないほど遠くなったことに
屋上で気付く
壊れかけたラジオが
どこか諦めた声で昔の歌を唄い
つづけている
紙飛行機のような飛行機を
眼の端で見送ったあとで
瞼の裏に風を受ける
いつか見た蜻蛉が
閃いたカーテンの隙間から
音楽室の
紙屑の上に静かに止まる瞬間を
夢見る




自由詩 晩夏五節 Copyright Utakata 2008-08-24 16:09:24
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