姥捨山
星月冬灯


 エンヤコラサ

 エンヤコラサ

 今からこの婆

 捨てにいく


 エンヤコラサ

 エンヤコラサ


 今年はうちの

 婆の番じゃ

 目暗(めくら)になった

 よたよた婆にゃ

 未練もない

 情が残らん内に

 はや山へ


 エンヤコラサ

 エンヤコラサ

 今からこの婆

 捨てにいく


 食いぶちがようやっと

 一人減るにゃ有り難い

 うちは大家族

 新しい嫁も来たからは

 もうろく婆は

 もういらねえ


 冬の山へ

 冬の山へ

 吹雪く山道

 婆担ぎ

 
 エンヤコラサ

 エンヤコラサ


 背中で婆が

 子守唄


 エンヤコラサ

 エンヤコラサ


 やめてけれ

 やめてけれ

 情が残っちまう

 おれは早く

 嫁んとこさあ

 帰りてえんだから


 エンヤコラサ

 エンヤコラサ

 今からこの婆

 捨てにいく


 春にはこの山にも

 綺麗な綺麗な

 花が咲くじゃろうて


 「婆も花になるじゃ」


 村のおきまりの

 台詞吐いて


 すたこらさ

 転げ落ちるように

 山を下ってゆく


 エンヤコラサ

 エンヤコラサ


 帰りは

 背中の荷物もないのに

 なぜこの足

 行きより重い


 エンヤコラサ

 エンヤコラサ

 
 婆よ早く花になれ

 綺麗な綺麗な

 花になれ


自由詩 姥捨山 Copyright 星月冬灯 2008-08-24 12:47:17
notebook Home 戻る