夏の翳
皆月 零胤
ひこうき雲が落ちた先の地平線の向こうではきっと
沈みかけの太陽に墜落した機体が静かに焼かれていて
壁の端のほうに逆さまに貼付けにされたヒグラシは
僕らを横目にそんな空を見下げながら一日を嘆いている
真夏の午後はとっくの昔に通り越しているのに
君はそれでも暗闇が降ってくるよりも前に
昨日僕があげた嘘を大切に抱えたままで
頭上で消えかけている鱗雲よりも速く泳ごうとする
得体の知れない明日の夢から醒めたそのあともきっと
夏の翳に轢きずられたまま秋を見ようとしないのだろう
今はただこうやってまだ幸せな振りをしていればいい
そして明後日の冬がきたら全部僕のせいにすればいい
ヒグラシの鳴き声が狂ったように空を引き裂いていって
何もかもが歪んでゆくからもう僕らは同じ空が見れない
薄らと浮んでいる月の輪郭程度にまで霞んでしまった
昨日想像したものと違う明日から僕らは目を背け続けた