移動機関
佐々木妖精

人参をはむサラブレッドに駆り立てられ
人々はパンを追う
手を伸ばせば届くかもしれないが
目の前で揺れるパンめがけ
疾走する者とリタイヤする者とが
各々の歓声へ沈んでいく

粉まみれの鼻をすすり
ヤク中は朝闇の中
血管を浮かべ注射器を走らせる
息の上がる要求に毒づきながら
過程のない酔いへダイブして
あけた酒瓶に楽園を注ぐ
母乳をせがむ呼び声は吐くのみで
オモチャのラッパも鳴らせはしない

私の目の前には猫がぶら下がっている
仕送りをポケットへねじ込み
抱き上げたヒロポンよ
髭を刺すフカフカの裸体よ
お前はハイヤーを走らせたのか
茶封筒のざらつきは気になるが
あまりの重さに寝転ぶしかない


自由詩 移動機関 Copyright 佐々木妖精 2008-08-21 08:13:48
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