てこの原理
コトリ

なにもたべずに、朝
あたらしい電車のはしっこからはしっこまで
わたしは仕事に出掛けていく
どんなに長い距離も
君のそれと交差することはもうないけれど

それでも駅に停車する度、未だ息が止まる
考えてたら、会えた
なんて
いくつも起こせた魔法は
期限切れだって、知ってる


離れた分だけ
てこの原理で持ち上げられたらいいなあ
君の人生に
光差すよう


力点で泣きながら祈るわたし
作用点、見えぬ君
支点はたぶんあの海だから
検討違いな力をぶつけてしまうよ
泣かせることさえもうできない

てこの原理
フレミングの左手
酸素のつくり方
退屈な科学の講義
きちんと聴いていたら、すこしは役立ったかな


これは僕の痛みだから
あなたには代われないと言った
それはあなたの悲しみだから
ひとりで歩いてほしいと言った

さよなら
また
どこかで


その日から
足を前に出すだけで
進んできた軌跡を
道と呼ばれて
わたしは行くだけで

てこの距離をひたすら広げる
力点はわたし
作用点に、君はもういない
あの日の海にも、もうちがう水が打ち寄せている


自由詩 てこの原理 Copyright コトリ 2008-08-21 02:34:09
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