世界飯店XXXチャイナ
rabbitfighter
大塚
都電の線路沿い
ホープ軒の隣の隣にある世界飯店は知る人ぞ知る世界飯店
一番の人気メニューはぱりっとした鴨焼飯
1000円
B級グルメというジャンルがあるらしい
B級
俺が今夜頼んだのは豚のロース丼
こってりとしていてとろっとしていて
880円
かすかにベトナムを感じたい
中華にべトナミーを感じたいから
俺は世界飯店に行く
食後はベトナムコーヒーで締める
いつもの習慣
ベトナムコーヒー
200円
女が一人でやってきた
俺はベトナムコーヒーをすすりながら
イシダユーリの詩集を読んでいた
何のへんてつも無いピンクのカットソー
何のへんてつも無い黒い綿のパンツ
以下、何のへんてつも無いは省略するが
すべての形容の頭についていると思ってほしい
黒いつるっとしたパンプス
BB弾の半分くらいの大きさの金色のピアス
後ろで束ねた黒い髪
顔
黒ぶちに真珠色のプラスティックが象嵌されためがね
なんのへんてつもない
たぶんCカップくらい
声をかけようか迷う
どんな風に切り出そうか悩む
店のおばちゃんは助けてくれそうに無い
注文を終えてからもメニューを眺め続けている
それから店内を見回して控えめに笑う
間違いない
こいつ絶対ミクシーのB級グルメ狂コミュとかに入ってるよ
それでニヤニヤしながらこのB級感たまんねーとかおもってるんだほら、
料理を携帯の写真で撮影したよ
それが儀式の始まりで
女はえびやきそばをねちねちと食い始める
俺はいまだに迷っている
声をかけるべきか
つまりナンパするべきか
世界飯店で?
イシダユーリの詩集を読みながら?
その詩集越しに女をチラ見していると途中で目があった
あのーそれイシダユーリさんの詩集ですよね?お知り合いなんですか?
いやまあ知り合いっていうか、おれが本人なんだけど?
ほんとですかーすごーい、私以前からずっとファンだったんです。
なんかユーリさんの書く詩って、すごく変態的で、どろどろしてて、生暖かくて、それがすごくやさしくて、でもやさしくなろうとはしていなくて、わたしせっくすってすきじゃないけど、いやっていえない性格だから、もういみなんてわからなくてもいいし、例えばこの料理の素材とか調味料とかわからなくても、口の中に入れればおいしくて、よくかんで、何度も何度も口の中でかんで、あとかたもないくらいにぐちゃぐちゃにしたらのみこんで、しばらくしたらうんこになるけど、うんこなんてみんな同じ、いろとかにおいとかその日の体調によって変わるけど、けっきょくうんこはうんこでしょ?だからうんこなんてくそみたいなものだとおもう。でもユーリさんの詩はきれい。だってみんなのみこんだあとで吐き出されたものだから。人差し指を突っ込んで消化される前にむりやりはきだされているから料理される前の素材の形がわたしにも知ることができるの。
イシダユーリの詩集
XXXチャイナ
たしか500円
残り部数は知らない
お前に何がわかるんだよこのくそったれって思いながら彼女の並べるゴタクを聞いていた。お前に何がわかる?それからおれに。もう家に連れ込む力も残っていない。そもそも俺はイシダユーリになりたかったわけじゃなくて、イシダユーリの詩になりたかったんだ。そう思うといそいで家に帰りたくなってきた
子宮壁から、経血と共に剥がれ落ちる、その崩落を、受け止めたい。
その音を聞きながら、受け止めたい。