一途坂
星月冬灯


 私は女

 着物の裾から

 ちらりと白い足


 真夏のじりじりとした

 昼時に

 白い日傘を差して

 坂を上って貴方に逢いにゆく


 どこかで蝉が鳴いて

 私は真新しい

 レースのハンカチで

 頬を伝う汗を拭って

 必死になって坂を上る

 ただ逢いたい一心で


 貴方の顔を

 思い浮かべながら

 ひたすらに上ってゆく

 赦されぬ恋

 いたたまれない感情

 罪の意識を胸に

 それでも逢いたいという

 醜い女の一途な執念


 ゆらゆらと地が揺れる

 真昼の蜃気楼

 もう蝉の声も遠い


 いつまで続くのだろう

 この坂道は


 すべてを裏切って

 伴侶(ひと)を欺き傷つけて

 苦しみの罰を受けても

 なお貴方に惹かれてゆく

 哀しい女の情念


 此処は蜃気楼なのか


 ならばいっそ消えてしまいたい

 陽炎のように

 蜃気楼の中に溶けて

 いつしか空気になれたら


 銀の指輪をそっと

 袖にしまって

 私は坂を上る

 貴方が待っているあそこまで

 
 ただひたすらに


 私は女ーーー



自由詩 一途坂 Copyright 星月冬灯 2008-08-20 12:55:56
notebook Home 戻る