夏の残り火
佐野権太

ラムネのビー玉を
半分あげるの、と鳥かごに入れて
じっと様子をうかがっている
握り締めたもうひとつには
何が映っているの

+

冷蔵庫の隅に
食べちゃだめ
と念を押されたりんご飴
不器用に齧られた
あの日のかたちのままで

+

さっきまで
ブルーハワイに染まった
青い舌を笑い合っていた君は
友達がきた
といって
行ってしまった

海をみている
ガラスの器に残された
銀のスプンと小さな海を

+

線香花火を少し残しておくと
来年も楽しい夏がくる
そんな話を
無垢に信じている浴衣の肩越し
柳に流れる最期の花を
やさしく見つめている

+

夏宵の瑪瑙めのうの風に
そぞろ映るこころ
果てしない空に高く、たかく

あれは音のない遠花火
緑いろにもえる
もえながら消えてゆく
夏の残り火







自由詩 夏の残り火 Copyright 佐野権太 2008-08-19 14:42:35
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