夏の残り火
佐野権太
ラムネのビー玉を
半分あげるの、と鳥かごに入れて
じっと様子をうかがっている
握り締めたもうひとつには
何が映っているの
+
冷蔵庫の隅に
食べちゃだめ
と念を押されたりんご飴
不器用に齧られた
あの日のかたちのままで
+
さっきまで
ブルーハワイに染まった
青い舌を笑い合っていた君は
友達がきた
といって
行ってしまった
海をみている
ガラスの器に残された
銀のスプンと小さな海を
+
線香花火を少し残しておくと
来年も楽しい夏がくる
そんな話を
無垢に信じている浴衣の肩越し
柳に流れる最期の花を
やさしく見つめている
+
夏宵の瑪瑙の風に
そぞろ映るこころ
果てしない空に高く、たかく
あれは音のない遠花火
緑いろにもえる
もえながら消えてゆく
夏の残り火