時と夜
木立 悟




音の闇があり
むらさきがあり
白い泡を染め
闇を抜ける


夜の会話が屋根を歩き
窓から入り
まばたきに驚き
再び出てゆく


夜に咲く花と脇道
小さく手を振る気配のあつまり
銀は静かに行方を指す
背をたどる背のひとつを照らす


羽の下で夜は鳴る
羽は重なり
音は蒼く
羽の下で夜は増す


魚が空を巡り終わり
そこにいないものの言葉を受け取る
誰も共には巡り得ない
百年後には誰もいない


光に沈むひとつの音が
雨の音を見つめている
光は常に近く
近くは見えない


会話はまだ屋根にいて
鴉のように動きまわる
川に捨てられた氷の山
針のかたちに溶け残る


骨の塔は蒼の近くに
さまざまな色を聴いて立ち
見つめることなく発することなく
響きを内にくりかえしている


とても良く似たふたつの日記を
数十年のまばたきが隔てている
父よ 毎日会っていたのに
あなたには遂に会えなかった


何かが屋根を去る音がして
水の流れる音がはじまる
たくさんの色 たくさんの針
海に空にたどりつく


















自由詩 時と夜 Copyright 木立 悟 2008-08-18 23:36:22
notebook Home 戻る