ラグーン
ふるる

夜はさみしさをたたえる水面
しずかに腕をひたして
あてどない動きにさらされていた

夜がひそかに身体をゆすると
いつしか私もゆれていて
抱きしめあった記憶が
手のひらからあふれた

いつか二人で見たラグーン
海から生まれた塩湖
蒼く
宝石のように大地に抱きとめられていた

(そんなふうに抱きとめられたのは、いつ)

思い出はどこまでも透き通っていく
ラグーン
海の記憶を持っている
それは蒼い涙
いない人をいつまでも想い続ける

月が白いまぶたを閉じると
まぼろしのあなたは
昨日よりもたよりない微笑で私を誘う
遠く知らない国へ
もう
あなたへの道を正しい順序でたどれない
いつもよりもずっと
溺れそうなのに

ラグーン
塩の結晶が肌にからみついて
ちいさな星のようにきらめいた
あなたの優しい言葉はまだ
肌にからみついたまま
うつくしく私をだます

けれども記憶は少しずつ手のひらからあふれ
沖へ運ばれてゆき
たゆたいながら帰る道を失う
ながれ星は
水平線の彼方へ

(あんなふうに思い出せなくなってしまうのは、いつ)

ラグーン
海を見失った湖
わすれて しまう
わすれたく ない
今も
あいして いる
あいしては いない・・・・
不安定なかなしみを映し

けれどもやがて
夜が引き潮になると
湖に金色の花びらが降りそそぎ
私は少しゆるされた気持ちになって
そっと足を踏み出す
下はさらさらとした砂
つま先がわずかに沈むけれど
昨日よりたしかな足取りで

ラグーン
蒼い涙をからだにたたえ
たえずゆれたまま
私は
一歩を

(朝焼けの空に)
(ながれ星が 消えていく)

(こんなふうに歩けるようになったのは、いつ)


自由詩 ラグーン Copyright ふるる 2008-08-18 00:19:16
notebook Home 戻る