豊田さんが泣いちゃった。みんながなかなか死なないから。
青木龍一郎

豊田さん…。
あぁ、豊田さん…。
君は僕の後ろの席に座っているよ…。

君は美少女ゲームに興味があるかい君は美少女ゲームに興味があるかい
君は美少女ゲームに興味があるかい
僕の「電撃G's magazine」を貸してあげよう
数少ない美少女ゲームの雑誌のひとつだ
ほら読んでごらん
女子が美少女ゲームやってたら この子何考えてるんだろう ってきっと思われる!!!!!

それってなんだかすごくドキドキしちゃう!!

ほら、今まさに僕の心臓が



トクン…
トクン…







口の中が甘いつばで満たされている。







豊田さんー。
豊田さんー。
豊田さんー。
君は右手に包帯してるよね!!


まだはずれないの?
一生、死ぬまでそこにまとわり付かせる気なの!?
君は自分では、ただ右腕に包帯を巻いてるだけにしか思ってないだろうけど
本当は包帯にずっとずっとずっとまとわりつかれているんだよ…?
だから外した方がいいよ…。
じゃないと、僕は君の右腕を肩の付け根から切り落とさなくちゃいけなくなってしまう。


その包帯、みんなはリストカットだって噂してるけど 違うだろう!!
僕はごまかせないよ…
そこには刺青で「青さ」と彫ってあるんだろう
いや 君はとんでもなく美しい
これは本当にマジで…
だから、生きるんだ。どうか生き続けて欲しい。
とにかく君は絶対死んじゃダメなんだ。
死んじゃダメなんだ。



僕も生きている。
僕と同じ保育園に行っていた奴が、この間、車に轢かれて死んだ。
でも、僕は未だに生きている。
生き続けているんだ。それってなんだかとても汚いことかもしれない…。

君、今、寂しさ街道?
僕、今、引きこもり街道!!



あぁ、君の心の中でチロチロと燃えていたであろう炎は何者かによってかき消されてしまった。
まるで氷の部屋と化してしまった君の心臓はきっと、それを溶かす熱が必要なんだ。

僕が、部屋で鼻糞をほじっている間にも
君は、薄暗い路地のような場所で
泣き
叫び
痛い痛いとわめいているのだろう?

君は僕の知らないところでボコボコに殴られている。
それなのに、僕はそんなこととはつゆ知らずに、マヌケに鼻糞をほじりながら好きなアイドルのでているテレビを眺めている。

君が痛い痛いと泣き叫んでいても、僕の部屋のテレビから流れる笑い声でかき消されちゃうんだ!
でも、本当は僕が耳を塞いでるだけなのか?
掛け布団を被って、目をギュッとつむって、ブルブルブルブル。してるだけなのか?
そしたら僕は本当に無力だ。

家の前で誰かが殺されても、それから目を背けるために
必死で見ているテレビに全神経を集中させるのだ。


僕には本当に何も無い!!
夜中、コンビニの前で女の人が強姦されていたら、ほんのちょっと見てから逃げてしまう!
でもそれって生き続けることなんだよね!?
生き続けるって、本当に汚いことだよね!?
ねえ!
ねえ!
ねえ!?


僕には本当に何も無い!!
何の力も無い!!
和尚さんがやってきて、僕をジーッと眺めた後
ニヤニヤしながら、半紙に筆で「無力」と書き始める!!





豊田さん…。
豊田さん…。
豊田さん…。


君はとっくの昔に、世界に殺された。


自由詩 豊田さんが泣いちゃった。みんながなかなか死なないから。 Copyright 青木龍一郎 2008-08-17 09:53:41
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