笹子ゆら

あの子は夏に死んだと云う
漆黒の髪をしずかに垂らしていた、
あの子は息をなくしてしまった

ひどく鬱いでいたので
空気の奇麗な山奥へ療養に行った
しばらくは落ち着いていて
やさしくわらっていたというのに

あの子がそこに意識として存在するうちは
季節がなんどめぐりめぐって
春になり秋になり冬になっても
人々が思い出して涙を流すうちは
その空間は、夏でしかありようがない

からりと晴れ上がった朝だった
蝉が激しく鳴きわめくので耳鳴りがすると云う
そうしているうちに震えたその身体は動きを止めて
うつろな眼を、おろしてしまった


あの子は夏に死んだと云う
やわらかな水をのぞみながら
……あの子は、夏に死んだと云う


自由詩Copyright 笹子ゆら 2008-08-16 14:49:34
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