夏
笹子ゆら
あの子は夏に死んだと云う
漆黒の髪をしずかに垂らしていた、
あの子は息をなくしてしまった
ひどく鬱いでいたので
空気の奇麗な山奥へ療養に行った
しばらくは落ち着いていて
やさしくわらっていたというのに
あの子がそこに意識として存在するうちは
季節がなんどめぐりめぐって
春になり秋になり冬になっても
人々が思い出して涙を流すうちは
その空間は、夏でしかありようがない
からりと晴れ上がった朝だった
蝉が激しく鳴きわめくので耳鳴りがすると云う
そうしているうちに震えたその身体は動きを止めて
うつろな眼を、おろしてしまった
あの子は夏に死んだと云う
やわらかな水をのぞみながら
……あの子は、夏に死んだと云う